悲劇の武将

「戦雲の夢」は長宗我部盛親の物語である。実は不覚にも盛親について書かれた小説があることをごく最近まで知らなかった。元親について書かれた「夏草の賦」が、元親の老年や長宗我部家の滅亡についてやけにあっさりしているのは、この小説ですでに語られていたからだろう。発表年代は「戦雲の夢」が61年、「夏草の賦」が68年で、「戦雲の夢」の方が先なのであった。
盛親は関が原以降、長宗我部家を滅ぼした当主であり、優れた人物であるという評価はされてないのであろうが、この小説においては一流の人物として描かれている。
実際、関が原では大した働きもなく、その後の対徳川外交では失策続きで土佐一国を召し上げられ、大名から牢人に貶められたのであるが、大坂の陣での活躍は真田幸村と並ぶほど目覚しく、戦術という面では、武将として優れていたのだろう。
大坂の陣ではかつて家臣であった桑名弥次兵衛一孝と敵として再会する。
桑名弥次兵衛は、関が原の後長宗我部家が土佐を没収されてから、家康側である藤堂高虎に仕えていた。そして大坂夏の陣、八尾の戦いで盛親と弥次兵衛は相まみえるのだ。この戦いで藤堂軍は長宗我部軍に惨敗、弥次兵衛も戦死する。
しかし豊臣方は敗北し、盛親は斬首される。
って、まだ数ページしか読んでないが、あらすじはだいたい知っている。普通物語というものは先を知ってしまってはいけないものだけど、歴史小説というジャンルは特殊で、知っているからこそ楽しめるものらしい。
八尾の戦いのくだりを読む時には、多分、泣くだろう。