March 16, 2010 BOB DYLAN @ OSAKA ZEPP その4

次の日は奈良に行った

 もうあのディランの来日の大阪での5夜目のショウから3ヶ月月以上が経った。「凄かった」という印象は消して薄まりはしない一方、時の流れとともに具体的な記憶はぼやけてゆく。そんな儚さは哀しいものだけど、色あせることはないものもある。
 でも、今の時代はyoutubeなんかで、隠し録り音源がなんぼでも聴けるものだから、文明の利器に感謝しつつも、何かを失う気もする。グズグズして今日に至るまで書いていなかったから、生での印象が、PCの前で聴いたそれに上書きされることを繰り返してしまったようだ。だから、時間が経つ程に書き難くなる。書き難いから書くのが嫌になる。気がつけば、ゲリラ豪雨の季節。確か、あれは春だった。

 やはりディランといえば、ハット。zepp大阪には羽飾りのついたハットを被った人が沢山。さすがにヒョウ皮のふちなし帽は見ない。水玉のシャツの人はボツボツ。それはちょっとやり過ぎの観。ニューエストモデルのライヴにボーダー柄のタートルネックを着て行くようなもの。告白すると、帽子屋で羽つきハットは探した。でも、私には似合わない。ハンチングなら自信あるけど。鳥打帽のディラン、見た覚えはない。

 11曲目は「追憶のハイウェイ61」。声色を変え、「神」と「アブラハム」などの役柄を演じ分けるようなヴォーカルが印象的。そしてここでもセクストンのリードギターが炸裂し、負けじとオルガンの鍵盤を叩くディラン。
 12曲目の「ポー・ボーイ」。激しいエレクトリックの後はアクースティックで、アコギな曲ではスチュ・キンボールのリズムギターが冴える。ドニー・ヘロンのペダル・スティールも。
 13曲目「サンダ・オン・ザ・マウンテン」この曲に限らず、今回のショウでのアレンジは、多くの曲でテンポを上げている。取り分けこの曲は早い。テンポを落としたグルーヴで攻めてくるのがベテランにはありがちなパターンだと思うが、逆。そしてそれは奏功している。兎に角、踊るしかない。
 ディランをよく知らない人にはディランのショウが骨の髄まで踊りに浸されるというイメージはないと思う。ディランは「詩」の人として語られることが多いが、何よりパフォーマーとしてのディランにこそ魅力を感じる。そして彼の中にはアメリカ音楽の伝統に根ざした現代がある。だから、常に私が最も興味を持つは、「過去の偉業」よりも「現在のディラン」だ。それは初めて彼のショウを観た94年からずっと思っている。
 14曲目「やせっぽちのバラッド」。これにて本編は最後だろうなと思ったら、やはり最後だった。そして一番の聴きどころでもある。もちろん、聴きどころは、いたるところにあったのだが。
 センターに立ち、ハーモニカだけを手にスタンドマイクで唄うディラン。
 「Do you, Mr.Jones?」ここでディランは見栄を切るような、しかし動きは僅かに、ちょっと半身に構えるようでもあるポーズを決めて、赤(だったと思う。)の照明との相乗効果で、凄味があるったらそりゃ凄い。別にミスター・ジョーンズをビビらせようとする唄ではないけれど。
 ディランは何も言わず、さっ、とステージを去った。その後はアンコールを求める嵐であった。
 ステージ奥の壁には多分ディラン自らがデザインしたであろう目玉をモチーフにした絵が描かれた垂れ幕が下りて、ディランと彼のバンドが再登場し、この曲だけは誰もが確実に予想できた「ライク・ア・ローリングストーン」のスネアが一発、鳴り響き、お馴染みのC-Fのイントロのコードに乗せられて歓声が渦巻いた。
 多分90年代の半ばごろまでは「必ず演る」って曲ではなかったと思う。そんな意地悪なディランでいて欲しい気もして、別に演らなくてもいいやって思っていたけど、「How does it feel?」ってサビのところは、ディランがどんなにメロを崩そうとも、強引にフロア全体で合唱しなければいけないところ。ディラン自身も意地でも「原形」と同じメロでは唄うまいとしているような気もして面白いのだが、合唱なんてできるのはここだけなので、やはりこの曲は必要なのだと思う。
 でも、あれ?、短い。3コーラスしかなかったような気がする。他の日はどうだったのだろう?
 アンコー2曲目は「ジョリーン」。アンコールに比較的馴染みの薄いと思われる最近の曲を持ってくるところがディランらしい。
 同名別曲の古いカントリーがあるらしい。というよりも、曲名だけ「ラヴ&セフト」したのだと思う。だから、ディラン自身この曲に思い入れは深いのだろう。
 アンコール3曲目は60年代末以降はどんな時代のディランも多分必ず演ったであろう「見張塔からずっと」。私の観た過去のステージでもすべて演ったからこれが生で観る3度目。
 この曲の「原形」は、ど・アクースティックだけど、ライヴではエレクトリック・セットで演られることがほとんどのようだ。というか「MTVアンプラグド」はそのコンセプト故、例外なのだろう。やはりジミヘンの存在が大きいのだろうな。
 しかしこの曲はアクースティック・セットで観たかった、と思っていた。でもいいや、エレクトリックでも。
 初めて知ったディランの曲はこの唄だった。世間一般で有名な「風に吹かれて」ではなくこの曲なのは、U2がカヴァーしていたから。欧米のロック、というよりロックというものを意識して聴いた、初めてのレコードがU2の『魂の叫び』だった。高校1年生だったと思う。
 以後、別にU2の熱心なファンではなかったけど、あのレコードは大きかった。ビートルズを聴いたきっかけもあれだった。「ヘルター・スケルター」が代表曲なのかと思ったけど。
 ちなみに今回の来日でのアンコールのセットリストは毎夜一緒だったようだ。
 歌い終わったディランは、ミック・ジャガーのようには深々と頭を下げることはせず、だけどフロアに向ける視線の目力は、遠くからでもとても強くに感じられ、愛想悪くてもサーヴィス満点な、他者にはけして成すことのできない極点の芸風だなあ、と恐れ入った。
 一度もギターは持たず。だけど、手ぶらやハンド・マイクで唄うディランは10年前には想像すらできなかったし、奇妙な鍵盤ってのもすごい発明なのかもしれない。
 ハイウォーターも聴きたかったが「ジョン・ブラウン」が聴けたのでよし。他にも聴きたい曲はあったけど、選曲に文句はない。選曲的にはこの大阪最終日が一番よかったのではないかと思う。

 しかし、かなり忘れているな。日記はまめに書かなければ。反省の日々。
 大阪などではブートも出回っているのだろうな。こんど行った時に探さねば。


1. Cats In The Well
2. This Wheel's On Fire
3. Summer Days
4. I Don't Believe You (She Acts Like We Never Have Met)
5. Forgetful Heart
6. Most Likely You Go Your Way (And I'll Go Mine)
7. John Brown
8. Under The Red Sky
9. Honest With Me
10. Masters Of War
11. Highway 61 Revisited
12. Po' Boy
13. Thunder On The Mountain
14. Ballad Of A Thin Man
(encore)
15. Like A Rolling Stone
16. Jolene
17. All Along The Watchtower