The Whoを観てきました。@大阪城ホール〜fortyfour Years Of Maximum R&B

Tシャツのバック

 もうピートとロジャーは日本を離れただろうか。一昨日の武道館でフーのワンマン初来日は終わった。私が観たのはその初日、大阪城ホールのたった1日だけであった。あれから1週間以上が経つ。いいライヴ程、観終わった後に感じる儚さが哀しい。だけど、記憶と感動は薄れることはなく、一生持ち続けるのだろうと思う。
 やっと時間ができたので『キッズ・アー・オールライト』と『ワイト島』のDVDを観返した。やはりアクションのキレが全然違うなあとか笑いながら。だけど1週間前に観たのも、まぎれもなくThe Whoであった。60代半ばのジジイになっても、芯の部分は全然衰えを知らない。
 妻も観たかったとか何とか言っていた。来日発表があった時に誘ったのだが、激高なチケ代のせいで見送ったのだった。妻は、別にフーのファンという程ではなく、オリジナル・メンバーの名前は全部言えても、アルバムタイトルなどは全然出てこないし、今のサポート・メンバーも、リンゴの息子がいるくらいは知っているが、ピノやラビットやサイモンは知らない。(そんな妻でもオリジナル・メンバーの名前が全部出てくるということは、やはり各メンバーのキャラクターが立っている所為だろう。)
 私が画面のロジャーやピートに合わせて唄っていれば、妻に
「ライヴでもそんなめちゃくちゃな英語で唄うとったんか?」
と問われ、もちろんそうだと答えた。
「じゃあ、エアギターで腕をグルグル回したりしてなかったやろな?」
と聞かれ、胸を張って当然に「やった」と答えた。妻は
「行かんでよかった」
と言った。
 
 11月13日は倉敷を9時台のバスに乗り出た。着て行ったのは『さらば青春の光』なコート。正確には、全然モッズなコートではないんだけど、気持ち的にはそうだ。ヴェスパでなくて両備バスでもいい。
 なんばに着いたのは2時前くらいで、まずは日本橋へ。「西のオタク街」はやはり面白く、あっという間に時間が経った。レコ屋も多かったが、ちょっと覗くくらいで何も買わず。大阪市立美術館で催されている「国宝三井寺展」にも行きたかったが、ロボット玩具たちを見るのも捨てがたかった。見るだけ、だけど。
 そんなうちに、時間も近づいて来たので、会場へ。電車でなんかグルグルしているうちに大阪城公園前へ。城ホールは今回が初めて。こんな大きい会場も初めて。今まで最大は2001年の大阪厚生年金大ホールのディラン。
 駅を出ると、早速露店が立ち並んでいるのが見えた。お祭りの時のような露店。それが、いつも大阪城公園に出ているものなのか、ライヴ客目当てなのかは分からない。そしてそこかしこに軍ものコートを着た人がいっぱい。年齢はリアルタイムで聴いたようなおっさんから私のように若いの、さらに若いのまで色々。そんな中でブートレッグ・グッズの店もあり、人だかりが。ブートのグッズを買うなんでアホや、と横目に見て通り過ぎた。昔、96年のディラン来日@広島の時に、世間知らずな若者であった私は、ブートの屋台で一万円くらい買い物をして、会場に入ってから、それが公式でないことを知り、すでに持ち合わせもなく、公式グッズはパンフしか買えなかった苦い記憶がある。
 まずは会場に入る前に腹ごしらえをと思い、コンビニにておにぎりを購入。城ホール前噴水に腰かけて食す。沢山の人。みんなフーの客。やはり年齢層は広い。ぱっと見た感じでは30代、40代が一番多く、20代は少ない、10代はいなさそう。50代以上も多く、彼らの顔はリアルタイム世代である自負に満ちているように思えた。そして、男性率が高い。これはフーらしい。
 噴水前で隣に座っていた人たちに話によると、ついにフーの来日公演の夢がかなったが、これだけ人が集まったのは隔世の感があると。確かに、フーはずっとビートルズストーンズに比べれば日本では過小評価されていた。実際、今でもそうなのかもしれない。2月のクラプトンは城ホールで2daysのようだが、待望の初来日でありながら1日だけだし。
 ダフ屋も出没していた。ひさしぶりに見た。
 入口へ向かう階段下のポスターで今回のツアータイトルが「The Who : MAXIMUM R&B」であることを知った。デビュー当時のフーがマーキー・クラブの箱バンであった時のキャッチフレーズである。ポスターのデザインも有名なリッケンバッカーを持ったピートが腕を振り上げるモノクロ写真が使われており、当時のポスターを模している。ちなみに94年発売のボックスセットのタイトルは『Thirty Years Of Maximum R&B』であった。私がフーにのめり込むキッカケであった。実に素晴らしいツアー・タイトルだ。待ちに待った初来日に相応しい。
 入場前にテントで出ていた公式グッズ屋でTシャツとツアーパンフを購入。トートバッグも欲しかったけど、売り切れだった。Tシャツはツアーのポスターと同じデザインの「MAXIMUM R&B」。バックにはフーのシンボルマークとジャパンツアーの日程がプリントされている。
 しかし城ホールはデカイ。よく行くBIG CATやクアトロの何百倍だろう。スタッフの人数だけでも、クアトロのキャパより多いんじゃないだろうかと思う。私のスタンド席からステージは100メートル近い距離があるように感じられ、こんな遠い感じは、ロックンロール的ではないような気がした。つまり、気持ちが萎えたのである。ステージで機材の調整をするローディもミクロマン人形のように見える。ステージ上にはスクリーンがあり、フーのシンボルマークを4つ映し出している。
 ボケーっとしているうちに開演近いよというアナウンス。後列はやや空きがあるようで、ソールドアウトではなかったみたいだ。
 どうせ遅れるだろうと思っていたら、7時過ぎてすぐに客電が落ちた。遠くて表情なんてまったく分からないが、ステージに上がってきたのは間違いなくピートとロジャーたちであった。そしてついに「キャント・エクスプレイン」のリフが響いた。
 この瞬間、フーを聴き始めてから今日までの記憶がフラッシュバックしたし、もう絶叫するしかなかった。スクリーンには60年代のオリジナルメンバーの映像が映し出されていた。ピートもロジャーもキースもジョンも等しく若く、ヤンチャであった。多くの客にとって(ジェネレーションの違いはあるにせよ)、脳内のフラッシュバックとこの映像はシンクロしていただろう。いい演出だ。ステージに近い方がいいに決ってはいるが、距離があるから会場が大きいからといって、ロックンロールでない訳ではない、と分かった。会場全体もたまっていたものを吐き出すように、大いに盛り上がっている。
 ライヴに行くたびに1曲目の予想というのは必ずするものだが、ジョンがない今のフーには、この曲以外に1曲目はありえないだろう。
 私は期待をしないようにしていた。自分を抑えていた。全盛期はとうに過ぎ、不世出のリズム隊を失い、年老いたフーであるのだ。生きてそこにいるのを見るだけで満足すべきではないかと。そんな後ろ向きな杞憂は打ち砕かれた。ロジャーはマイクをブン回し、ピートは腕を振りまくる。そして演奏もタイトで、もうそれはまぎれもなくTHE WHOであるとしかいいようがない。本心は期待していたし、期待すべきだった。どんなに期待してもし過ぎることはなかった。私は幸せだった。ロックンロールに出会えて。フーを愛し、そのライヴを体験できて。
 2曲目は「シーカー」であった。これは意外であった。あえて近頃のセットリストはチェックしていなかったが、これはサプライズ選曲なのだろうか。
 ここで、客のノリが少し引いた。ベスト盤に入ることは少なく、オリジナルアルバムにも収録されていない「シーカー」は一般的にはマイナーな部類の曲になるだろう。(ただし『エンドレスワイヤー』の初回限定ボーナスディスクにはライヴ盤が収録されていた)
 意外な曲で嬉しかったが、3曲目はさらに「リレイ」だった。これも「シーカー」と同様にマイナーな曲。近年のセットリストによく入っていることは知っていたが、来日公演で演るとは思っていなかった。盛り上がっている客と引いている客の差は歴然だった。ベスト盤しか聴いていないって人が多いのだろう。それは仕方がない。
 ピートはMCで「ハロー、ヨコハマ!」と言ったり「ハロー、トーキョー!」と言ったり、ギャグを飛ばして機嫌がよさそう。
 そして4曲目、新譜からの「フラグメンツ」のイントロで、大歓声と手拍子が起こった。唄が始まると、また客のノリが引いた。戸惑いに似た空気でもあった。おそらく、客の7割は「ババ・オライリィ」と勘違いしたのだろう。愚か者どもめが。
 スクリーンは曲ごとにイメージ映像を流していた。つまりステージ上をアップで映すものではなかった。大きい会場なのでそれは欲しかった。イメージ映像も、いいものはいいが、下らないものも多かった。
 5曲目は「フー・アー・ユー」6曲目は「ビハインド・ブルー・アイズ」とやっと有名曲が続き、会場も盛り上がりを取り戻した観があった。
 04年のベスト盤の新録曲「リアル・グッド・ルッキン・ボーイ」に続き「シスター・ディスコ」とまた通好みな選曲が続いた。
 それからついに「ババ・オライリィ」。今度こそって思ったかどうだか、シンセのシーケンスに合わせて再び手拍子が起こり、大歓声。
 その次は何かピートとロジャーのやり取りがあり、英語が分からない私は何言ってるのか分からなかったが、音響がよくなかったことについてだったみたい。ピートが「俺のヴォーカルの曲だから」とかなんとか言ってから「エミネンス・フロント」。「シスター・ディスコ」も「エミネンス・フロント」も予想すらしていなかった隠れた名曲で、私にとってはサプライズ。近年のセットリストにはよく入る曲みたいだが、下調べしとかなくて良かった。
 「5:15」と「ラヴ・レイン・オル・ミー」と『四重人格』のナンバーが続き、スクリーンには『さらば青春の光』の映像が流れた。こういうところはこのスクリーンはとてもいい、と思ったら、映像はループになっていて、さっきみたとこがまた流れた。これは興冷め。ロジャーは「ラヴ・レイン・オル・ミー」を歌い上げた。フーはヴォーカルだけはもの足りないバンドということはよく言われて、私もそう思った時期はあった。圧倒的な声量ではあるが、ミック・ジャガーなどに比べれば確かに深みも黒っぽさもないようには思える。しかしその見方は正しくない。ロジャー以外にフーのヴォーカルが考えられるだろうか。表現力が豊かなことは、「ラヴ・レイン・オル・ミー」をはじめとして、いくつもの曲で証明されている。
 そしてついに「ウォント・ゲット・フールド・アゲイン」。ピートは昔
「ロックンロールは我々を苦悩から逃避させるものではない。悩んだまま踊らせるのだ。」
と語った。初めて聴いた時からこの曲は私の心の中で常に鳴っている。クライマックスのロジャーのシャウトに合わせて会場全体が叫んだし、その中で一際、私の絶叫は大きかったと思う。
 つづいての「マイ・ジェネレイション」で本編はこれで終了かと寂しさを感じつつ、さらに狂ったように踊った。椅子があって踊りにくかった。曲終盤でのインプロヴィゼーションもあった。これでこそピート・タウンゼントだ。
 「マイ・ジェネレイション」のベース・ソロ以外では、ピノ・パラディーノは抑え気味にプレイしていた。全体的にベースのミキシングも小さめだった。ジョンの代役ができるプレイヤーなどいる訳はないし、それは賢明な判断であると言えなくはないが、もっと個性を出してもいいとは思う。
 一方、ザック・スターキーは派手に、在りし日のキースを連想させるほど堂々としていた。今もフーがあるのは、ザックによるところが大きい。
 サブのギターのピートの弟のサイモンは目立ったところはなかったが、コーラスでは重要な役割を果たしていたと思う。
 キーボードのジョン・ラビット・バンドリックも所々存在感を示していた。
 ピートはMTVのインタビューで
「フーのステージには幽霊が出る。キースとジョンが今もいっしょに立っている」
みたいなことを言っていた。二人の音楽的な遺産が、今もフーの中で生きているという意味だ。確かに、私にも二人の姿が見えた。勿論、オカルティックな意味ではない。
 曲によっては客の反応にムラがあったし、音盤になったとして冷静に聴けば、演奏に粗もあるかもしれない。私の席がかもしれないが、音響も良くはなかった。それでも素晴らしいライヴだった。フーはやはりフーであった。その歴史に恥じないステージを今も創り出している。
 アンコールは「ピンボールの魔術師」に始まる「トミー・メドレー」。ちょっとした羞恥心もあって、それまではしなかったが、もう抑えきれなくなり、エア・ギターウィンドミルをしてしまった。
 最後はステージに二人だけが残り、ピートの生ギターで「ティー&シアター」を唄った。
 そしてピートとロジャーは固く抱き合った。ロックバンドの不仲説はよく言われることで、この二人はその代表格であったが、そんなものに何の意味がある。
 ギター・スマッシュもなかったし、ピートはジャンプもしなかった(腰が悪かった?)が、「キッズ・アー・オール・ライト」や「エニウェイ・エニハウ・エニウェア」も「サブスティチュート」も演らなくても、意外な曲が聴けたセットリストには文句はない。
 最高のライヴだった。2時間でも充分だった。
 あれから1週間経ってもまだ興奮は冷めやらず、フーばかり聴いている。ituneで大阪のセットリストと同じ曲のプレイリストを作った。mixiなどの情報では大阪よりもさいたまや武道館の方がよかったという声もある。でもそんなのはどうでもいい。「ネイキッド・アイ」は聴きたかったと思うけど。
 今までロックンロールを聴いてきた自分史の中で、この体験は重要な1ページとなった。もう過ぎ去ってしまった儚いことであるが、記憶には強く深く刻まれた。フーは通販限定ではあるが、ライヴ音源をすべて音盤化している。聴かずに思い出の中だけに留めた方がいいのだろうか。勿論、発売されれば買うのだろうけど。
 
オフィシャルサイトよりset list
 
 
I Can't Explain
The Seeker
Relay
Fragments
Who Are You
Behind Blue Eyes
Real Good Looking Boy
Sayonara Sister Disco
Baba Osaka
Eminence Front
5:15
Love Reign O'er Me
Won't Get Fooled Again
My Japan-Nation

Encore:

Pinball Wizard
Amazing Journey
Sparks
See Me Feel Me
Tea Ceremony and Theatre