オタクの群像

 上野駅の近くのコンビニで栄養ドリンクを飲んで秋葉原へ出発。到着のころには効き始めてどうにか歩けるようになった。
 その日は「あの事件」から6日目だった。50メーターくらいづつに警官が立ち、現場になった交差点には献花台があり、手を合わせている人の姿も多くあった。それ以外の部分では街の雰囲気に奇異なところはなく、沢山の人がいて、普通の土曜日と変わらないように思えた。でも、本当は分からない。多分事件は至る所に影を落としているのだろう。後で報道で知ったことだが、事件以後は人出も減ったらしい。私は本来のアキバの姿を知らない。街の空気感のようなものも知らない。
 ウルトラ好きの同僚のためにフィギュア屋を探したが、またしても適当な店を見つけられず。アキバにないはずはないのだが。(しかし1週間後、大阪日本橋にて何点かは見つけることができた)
 そしてついに、メイド喫茶を初体験。「おかえりなさいませ」と出迎えられ、早速戸惑う。アイスコーヒーを頼んでから店内を見回すと、複数で来ているお客さんも多いが、私のように1人利用もいて、分かりやすくデレデレな顔つきでメイドさんを目で追ういかにもオタク然とした30代男性が数人、気さくにメイドさんと話を弾ませる見た感じ普通な兄ちゃんが一人、など、ひと括りにはできない客層。
 冷コーを持ってきたメイドさんが、テーブルに置いた私の携帯電話のスッテカーを見て、「MO:GLAって何ですかぁ〜、ご主人さま」と話しかけて来て、「岡山のライヴハウス」と普通に答え、「しまった」と思った。田舎者とバレてしまう。でもメイドさんは『岡山』というところには反応せず「すご〜い、ライヴとかするんですか〜」とすごくない感嘆だったので本当は観るだけだけど「うん」とだけ言っておいた。「ヴィジュアル系やけどね〜」とDAIGOのポーズでボケてみようかとも考えたが、止めておいたことは正しかったと思う。
 そんな会話未満の間に、メイドさんはコーヒーにフレッシュを入れて、ストローで混ぜ混ぜしてくれた。私はコーヒーの中のフレッシュがブラウン運動のみでゆっくりと広がっていく中をちびっとずつ飲んで味のムラを楽しむのが好きだから、それは不要なことではあったが、めったにしてもらえることでもないので、やはりありがたがるべきことだろう。
 どのメイドさんも可愛いくて、好きな人には萌え〜なのだろうが、私は可愛い系よりも綺麗系のお姉さんが好みなので、メイド喫茶向きではない、ということが分かった。あまり萌えることはできなかった。
 秋葉原駅に入ろうとしたところで、四川地震への募金を呼びかけている人がいて、少ないけれど、数百円を箱に入れた。その男性は中国人留学生かと勝手に思ったのだ。帰ってから気がついたことだが、その団体は毛派の流れを汲む過激派系の団体で、それ以前にも募金の使途については色々疑惑を持たれているらしい。ひどい話だ。東京はよぅ、と長渕の歌など口ずさんだり。