四月の闘病記と五月のガンダム地獄

ジョニーと辞典

 これは最近知ったことである。ガンダムの「眼」の部分、当然にカメラなのであるが、実はこのデュアル・カメラの方は射撃補助用であり、頭頂の突起(モヒカンみたいな)、こちらがメインのカメラなのである。逆だと思っていた。ついでに言うなら、ジムもゴーグル状カバーの内部はデュアル・カメラになっている。中身はモノ・カメラだと思っている人も多いんじゃないだろうか。実際、カバー越しにジオン系のモノ・アイのようなカメラが透けて見えるイラストを見たこともあるが、「公式設定」ではジムもデュアル・カメラなのだそうだ。。
 さて、四月の半ばにインフルエンザで寝込んだ。これだけの高熱を出すのは多分小学生の時以来だった。四十度は超えなかったが、平熱が低いので、常人でいうところのオーヴァー40くらいの感覚はあっただろう。
 意識が朦朧とするのは熱のせいだったのだろう。タミフルは三十五歳には有害ではなかったようだ。処方する時、医者は見ればおおよそ判るものをわざわざ「歳は?」と聞いてきた。「その歳ならまず、何もない」と。「曰くある薬なので飲みたくなければ飲まなくてもいい」とも言ったが、飲まざるを得なかった。その女医は、昔かなりの美人だったろうし、今でもその片鱗はある。十五年早く診察されたかったと思えるくらいの意識は保っていた。少なくとも副作用による異常行動はなかったと思う。
 症状が出た初日は風邪かと思ったし、あるいは花粉の量が多いのかとも思った。「重いヤツ」が来そうな予感もなかったけれど、風邪にしてはいつもと感覚が全然違った。三日目に高熱が出た。
 小さい頃、熱に浮かされると、夢でもないのだが覚醒もしていない中に見えるイメージがあった。何とも形容しがたいが、酷く濁った茶色と灰色のグラデーションの風景の中に自分がいて、溺れているような感覚で、それを思い出そうとするだけでも気持ちが悪くなる。それがこの前は見えなかったのは、大人になったからなのだろうか。もしかしたら幼少を過ごした家のカーテンの模様が歪んでそう見えていたのかもしれない。
 結局仕事は四日休んで、加古川のカフェ・セシルでの花田さんのライヴも行けなかった。高熱自体は三日で治まったが、ウィルスのキャリアーであるのと、しばらくはフラフラする状態が続いたからだ。三日でどうにか治まったのはやはりタミフルの効果だろう。
 床上げから一週間後、ノートパソコンを買った。まだデスクトップも貰い物のノートPCも生きているのだから、これは無駄遣いだろう。
 メモリを増やして、旧PCからファイルを転送して、windows up dateして、色々インストールして、設定も一通り終わり、やっと使える段になると、動画がひどくコマ落ちすることに気がついた。サポートに問い合わせてみるとどうやら初期不良のようだった。購入店舗で交換してもらったが、設定をまた一からやり直しで、非常に手間取った。旧PCとネットワークの構築にも手間取った。
 そんなこんなで二週間は新ノートPCに掛かりっきりだった。しかし、使える環境にさえなれば非常に快適だ。最初はvista慣れるまで戸惑ったが、CPUのパワーもあるし、メモリも増やして余裕があり、分かりやすく喩えるなら宇宙世紀0079年12月の時点でにMS-14B高機動型ゲルググを配備されたようなものだ。いや、それは言い過ぎか。少なくとも、ザクとは違う、ザクとは。
 PCについては、何かトラブルがあったり、新しいハードを買う度に詳しくなる。だけれど、世の中の進み方はもっと早いのですぐに置いて行かれる。
 闘病からこちら、まったく本を読まなくなった。少なくとも小説は。ずっと何か読んでいないといけないような強迫観念があったのだが、バタバタとしているうちに読む習慣が何処かに行ってしまった。一連のPCの作業も終わり、時間はできたのだが、何が読みたいのか分からなくなった。未読の本も沢山あるのだが、手に取ってもページを捲るのが進まない。だから、DVDを観た。主にスタートレックガンダムである。そんなうちに、四月は終わった。
 五月になって、人生何度目かの――もう数えれないが――ガンダム・ウェーヴが来た。一作目のガンダムΖガンダムの各テレビ版を、全話観ようと思う。
 「ガンダム・オフィシャルズ―公式百科事典」と「ガンダム・ジ・オリジン」を全巻買った。
 「ガンダム・オフィシャルズ」は二〇〇一年の刊行なので、現時点で見て不足する情報もあるのだが、とにかく定価一万五千円に九百頁、重量三・五キロのボリュームは半端ではない。これは宇宙世紀100年の時点に編纂された、一年戦争からデラーズ紛争までの期間を扱った百科事典という体裁を取っている。ずっと欲しかったのだが、なかなか手が出なかった。
 映像作品で描かれた以上のことをいわゆる「オレ設定」で補完しつつ考察した書籍やwebサイトは多いが、ここに書かれたことはサンライズ監修の下で、すべて公式に認められた「事実(宇宙世紀100年現在、事実としてとして流布しているもの)」である。ちなみに「機動戦士ガンダム」のテレビ版と映画版では、例えばホワイトベースに配備されたのがGファイターかコアブースターか、マ・クベが戦死か存命かなどの違いがあるが、映画版の流れを通説として、テレビ版は異説として紹介している。
 本日の日記の冒頭のように、初めて知ったことも多く、この本によって私の人生はかなり豊かになるのだが、何分三・五キロもあれば、読むのに筋力を要し、三倍のスピードで苦労する。
 後の「ガンダム戦史本」はこの本を下敷きにしているし、マイルストーンであった。編者の皆川ゆかガンダム関係の小説も多く手がけている。ゆかという名前だが、女装した男性である。
 「機動戦士ガンダム・ジ・オリジン」も全巻一気買いした。これは、第一作その他でキャラクターデザインや作画監督などで参加した安彦良和の手による漫画である。第一作のリメイクであるが、開戦前の情勢やキャスバル・ダイクンがどのようにシャア・アズナブルとなるか、などアニメで描かれなかった部分も描かれている。設定も見直されているところが多々あり、別物として楽しめる。何より、安彦良和は漫画家として非常に素晴らしい。手の届くところに置いてあると、ついつい何度もページを捲ってしまう。
 この新型ノートPCに因んで(?)、MS-14B高機動型ゲルググジョニー・ライデン少佐機のフィギュア(MS in action)も買った。本当は量産型が欲しかったのだが、商品自体が出ていなくて、それでシャア専用ゲルググとどっちか迷ったのだが、ピンクのシャアよりも真紅のライデンの方が格好良く思えた。ただし、高機動型ゲルググは、すでに持っているガンダムとは並べて飾ることが出来ず(ア・バオア・クー戦も同じ宙域には居なかったはずだ)、単独で飾るか、MS-14Cゲルグルキャノンなどキマイラ隊所属機を新たに買って並べなければならない。それは、難儀なことだ。
 ジョニー・ライデンはアニメには登場せず、プラモデル展開の設定上の人物である。多分「コミックボンボン」あたりのプラモデル作例記事で「機体を紅く塗ったライデン機は、よくシャア・アズナブル機と誤認されたらしい」というキャプションを見たのは小学四、五年くらいの時分だろうが、アニメになっていない部分にも幾多のドラマが広があると、想像を広げることを教えられた時が、ガンダムに呪われ始めのひとつであった。