ワイフは遠くなりにけり

 先日のヒートウェイヴ@岡山BuleBulesを観た。
 BuleBulesはできてからそんなに日も経っていなくて、今回初めて訪れるハコであったが、雰囲気もいいし、場所も表町と便利で、何より音が良かったのが意外且つうれしかった。去年は山口のソロライヴの会場でもあって、山口もお気に入りのようだ。
 そんなハコの持つ空気感を吸収するようにヒートウェイヴのライヴも大変素晴らしく、去年のグルーヴァーズとの対バンの時は正直ガッカリしたが、そんな記憶は払拭された。
 あの時はグレッチを持って来ていなかったのがよくなかった。アコギでの表現も好きだけどグレッチもロッケンローラー山口の重要な要素なのだ、言うまでもなく。
 ヒートウェイヴはいつものことだが、音が大きくはない。適度な音量の方が細部が伝わりやすいという山口の考えだが、的を射ていると思う。音がいいと感じたのもその部分が影響したのかもしれない。たまには音量的にもの足りなく思うこともあるが、成功している。それでも池畑の兄貴のドラムスはパワフルに伝わるし、渡辺地獄のベースの、たまに見せる繊細なプレイも感じ取れる。
 トリオでもえいやんと、思ってしまった。「Land of music」を特異な地点で傑作成らしめているのは音響的な面での魚ちゃんのセンスが大なのであるが、ライヴではトリオでも充分完結しているし、その「素」なところが素晴らしい。では、魚ちゃんが要らないかといえば、そうではなくて、3年ほど前の出雲での山口と魚ちゃんのみでのステージも即興性に溢れ、魚ちゃんの変な感覚も冴えていた。山口と兄貴、山口と地獄、あるいは山口ソロでも、ヒートウェイヴの世界は成立するのだろう。実際、そういう面子でのライヴも行われたらしい。山口の唄は柔軟なのだ。
 ヒートウェイヴの客は、最初から全開で盛り上がるんではなくて、始まった時は何か手探りな感じで、段々と、無理やりでなく、ステージに反応していく感じがいい。実に自然に盛り上がるのがいい。大阪の魂の何とかいうバンドの目玉も顔全体もおっきい人は「今日の客大人しいなあ」とか厭味めいたことを言うが、そういうのは止して欲しい。冗談だけど。
 ところで、このライヴには一人で行ったのだが、別に妻はその日他に用事があった訳でもなく、岡山までは出てきて、BuleBules近くをブラブラしていた。彼女はもう山口には興味も愛着もないそうなのである。ついでに言うなら、ソウルフラワーに対しても同様なのだが、ライヴ後に話したら、中川も奥野も今でも彼女のことを憶えているから、岡山まで来たのなら、観に行ってもいいそうである。
一方、山口は神戸にてソロライヴのスタッフをしたにも関わらず、何度会っても憶えていない。
 私はおそらくこの10年、音楽の趣味が広がりこそすれ、一度愛したバンドに対して冷めてしまったということは、ただの一度もなかったし、これからもないと思う。しかし妻は、遠いところに行ってしまった。
 今回のライヴの2曲目か3曲目かは「CARRY ON」だった。
 
「君はいまや河の向こうに住み/ぼくに戻る橋もない」
 
 会場で会った人たちに、今日は妻は一緒ではないのかとか聞かれ、説明に窮した。不仲であると思われたら痛い。嗜好の相違は如何ともし難い。
 しかし2月の終わりには岡山クレイジーママ2ndにてうつみようこ&YokoLocoBandを一緒に観た。
 ちなみに、妻は興味なさげだったが、対バンの地元3バンドも良かった。予想外に上手かった。今日びは、地方のアマチュアバンドでもたいしたものがいる。パワーポップであったりメロコアであったり、特に好きなスタイルではなかったが、楽しめた。
 で、対バンも上手いなあと思ったが、YokoLocoBandは段違いだった。まあ当然な話なのだが。
 このように、妻といっしょにライヴに行くこともあり、完全な断絶があるわけではなく、寧ろソウルフラワーやヒートウェイヴの周辺のバンドで共通に好きなものも多いのではある。 
 
「どこかへ辿りつけたなら/過ぎた日々にも風が吹く」