トーキョーという魔都

さんばか

 幼年期、東京にはゴレンジャーやジャッカー電撃隊が本当にいると思っていた。あるいは東京とはフィクションの中にのみ存在する空想の都市であると。
 あり得ないくらいの高層のビルディングが林立し、湾曲した高架の道路が縦横に走る、ブラウン管の中のその光景は、私の知る現実からかけ離れていた。そのころ高知で一番高い建物はホテル「三翠園」の十四階であった。唯一と言っていいくらいの高層ビルだった。(市内のどこからも城がよく見えたものだ。)高いものの喩えで「三翠園の十四階ばあ(くらいに)高い」という慣用句は、今では死語だろうか。高速道路も高架の道路も、まだなかった。
 ある時、「ボクねぇ、東京行ってみたいがよ。ビッグワン(ジャッカー電撃隊の行動隊長、演・宮内洋)に会いたいがよ」と、そんな夢のような街についての思いを言葉にしてみた。無論、犯罪組織「クライム」の「侵略ロボット」も跋扈しているであろう。そんな危険と紙一重の街であるが、やはり憧れのヒーローには会ってみたい。母はそんな私の一言に対して「馬鹿なこと言いな(言うな)。おる訳ないろう」と即座に否定を返した。強い否定。心の中で、壊れる音がした。
 私が人生の半ばを過ぎようという歳になってもヒーロー番組を見るという十字架を背負っているのは、そんな心無い言葉からかもしれない。いや、ほんとは実に楽しいんだけど。
 先々月出張で東京に行き、変身ヒーローには会えなかったが、チェ・ホンマンには会った。品川駅を歩いていた。デカい人、チェ・ホンマンみたい、って思ったら、本物だった。「私はあなたがチャンプになるように期待しています!」と話しかけたら、僅かなリアクションはあったが、ノー・アンサーだった。仕方がないので「サンキュー・ベリマッチ・サー」と言ってみた。
 正直な話、オフの日もまじめに同業他社の見学をして回ったので、物見遊山はしていない。生き馬の目を抜くような大都会だが、人の住めないようなところではなかった。目玉は抜かれるかもしれないが、私がその住人になっているという想像も、想像の中だけであるが、出来なくもない。行ったことはないが、下北沢など、ミュージシャンやアーティストの町ってイメージで憧れる。でもやはり、唄や小説の中の、遠い世界の街、って感じは、今でもする。また行きたい。今度は東京をちゃんと知るために。