迎春余韻の城下町

 正月の目出度いのは三が日が精々なのであって、四日ともなればその残り滓を見るようなものであるが、かといってその本当に目出度い三が日は、来る年来る年、働かねばならぬ身の、何と賎なることか。なんちゃって。
 そんな訳で、ひとり岡山へ行ってきた。「ピース・ベッド〜アメリカ対ジョン・レノン」という映画を観るのがメインの目的である。
 倉敷が嫌いな訳ではないが、岡山の方が妙にしっくり来るのは城下町の名残りがあるからか。松山もそうだった。生まれも育ちも土佐の高知だ。
 やはりまだ休日の人も多いようで、山陽本線の列車も岡山駅構内もそれなりの人出。昨年やっと自動になった改札を出ようとしたところ、切符を失くしたことに気付いた。
 駅員に倉敷から乗った旨とその傍証として往復中の復の切符をちゃんと持っていることをアピールしたら、「困るよね。切符を失くしちゃ。今回は大目に見て通してあげるから」と居丈高に言われた。客に対する言い様としては腹立たしいものであったが、切符を失くすこちらが悪いのであり、黙して通り抜けた。接客業として常識外れな態度ではあるのだが、それで済ませられる彼の人たちを羨ましくもある。私など、一日の仕事の中で何度、心の裡だけに押さえ込みfuck youを叫ぶことか。
 ヴィレッジ・バンガード高橋源一郎の小説と町田康の詩集を購入。高橋源一郎は最近一番読む作家。町田康は小説も詩(歌詞)も好きだが、何故かパンク歌手の面はのめり込めない。今日もJR車中ipodで聴いていたのだが、途中でグルーヴァーズに換えた。
 レコ屋でディランのブートを見つけた。今までブートに手を出すつもりはなかったが、2001年の来日の記憶が蘇り、それに近い時期のライヴが聴きたくなった。買ったのは2003年4月30日のケンタッキー州でのものだ。
 ブートというやつは、裏ビデオみたいなもので、もしハズレでも文句は言えない一か八かの賭けである。しかして、それはS級女優の無修正にも匹敵するものであった。客席録りらしく、周りの客の話し声やら手拍子やらが耳障りではあるが、それを臨場感と捉えられなくもない。音のバランスも悪くないし、何よりもパフォーマンスが素晴らしかった。「ハイ・ウォーター」はエレクトリックなアレンジになって、曲リストを見ないと何の曲か分からなかっただろう。意地でも音盤と同じアレンジでは演らないディランは最高。
 映画は面白かった。今日が上映日最後であった。行ってよかった。もう睡魔のせいで今夜はこれ以上書けない。