コウチ・プリフェクチャー・ヒエラルキー

 「歌姫」を毎週見ている。土佐清水を舞台にしたドラマである。土佐清水には有名な足摺岬があり、ジョン万次郎の故郷でもある。
 土佐を舞台にしたドラマとなれば、気になるのは方言の正確さであるが、語法的に間違いが多く、アクセントも正しくはないが、合格点としてもよいと思う。撮影のすべてに方言指導が付きっきりというのは難しいだろうし、ネイティヴでない者が正しいアクセントで喋るのはまず無理であろう。土佐弁は難しい。
 ただ、土佐弁としては、合格点であるのだが、そもそも清水は土佐弁の圏内ではなく、幡多弁である。窪川以西は幡多地区となり、言葉もガラリと変わる。語法も違うし、アクセントも違う。土佐弁は関西系に近いアクセントであるが、幡多弁は関東系に少し似ている。
 幡多の人たちは劇中の人物が話しているのが幡多弁でなく土佐弁なのに釈然としないものを感じているのではないだろうか。尤も、劇中で幡多弁が使われたとすれば、幡多弁が標準的な土佐弁であるかのように全国的に誤解されるおそれもあり、ドラマというものの嘘として、これは妥当であろう。(ちなみに東部では多少の違いは認められるものの、中部と同じ土佐弁である)
 ただし、ドラマ自体はまったく面白くない。高知県が舞台でなかったら、おそらく見ることはなかっただろう。それに時代考証もおかしいところがあって、長瀬君はエルヴィスよりも先に「ジェイルハウス・ロック」を唄ったことになる。(時代設定は55年と思われる)
 さて、その幡多であるが、元々は土佐とは別の国であって、土佐に編入されたのは律令時代だったらしい。他国との交流も、土佐よりは九州方面や伊予との方が活発であった。土佐一国に統合された後も、土佐国中心部とは間にある山々などの地理的条件により交流は活発でなかったようだ。養老年間以前は、都からのルートは瀬戸内を経由しての西廻りであったので、現在とは逆に幡多の方が先進地域であった。
 応仁年間には乱を逃れて都を落ちてきた関白一条教房が、町並みに都を模したところから、中村は「土佐の小京都」と呼ばれる。
 詳しくは人物往来社の「高知県の不思議辞典」を参照されたし。
 未だ高速道路の整備も遅れているため、やはり幡多は僻遠の地である。土佐中心部で幡多弁を使っているとバカにされる。だけれど、幡多人には幡多人のプライドがある。いかだようかんもある。じゃがたら江戸アケミが中村の出身であったことを最近知った。「幡多美人」といって、美人が多いという説もある。私の知る限り、それは事実である。