最悪の悪人

 同僚と「最も悪い奴は誰であったか?」という話をしていて、やはりショッカー大首領だろう、という結論になった。ここで言う「ショッカー大首領」とは、ショッカーに始まり、ゲルショッカーデストロン、ゴッド、ゲドン、ガランダー、ブラックサタン、デルザー、ネオショッカー、ドグマ、ジンドグマ、バダンという仮面ライダーの世界の歴代悪の秘密結社の数々を裏で操っていた存在のことである。言うまでもなく、ショッカー、ゲルショッカーデストロンは連続性のある組織であり、それらを統べる大首領が同一の存在であることはその活動当初から自明のことであった。ゴッド、ゲドン、ガランダー、ブラックサタンにはそれぞれ別個の頭目(ガランダーの支配者である「真のゼロ大帝」はゲドンの支配者でもあったのだが…。このあたりややこしい)がおり、デルザー軍団に至っては実質軍団の体を成さない「改造魔人」の寄せ集めであったが、デルザー崩壊後に出現した「岩石巨人」が「ショッカーからすべての軍団を裏で操って来た」とカミングアウトしたものだから、そうなってしまった。つまり、各軍団の頭目も実はショッカー大首領の操り人形であったと理解するしかない。「岩石巨人」内部には脳の怪物がおり、宇宙から来たモノらしい。自爆したが、宇宙に帰ったのかもしれない。
 その後のネオショッカーの大首領も翼竜の姿をした宇宙生物であった。ドクマとジンドグマの支配者も宇宙人であり、それぞれB26暗黒星雲から来たらしい。岩石巨人の中の怪物との関係は不明であるが、怨念か悪霊というような存在であったバダンの首領も同一の存在と見て間違いない。このあたり、実にややこしいのだが、結論を言えば、歴代悪の秘密結社には連続性があり、裏で操っていた存在も同じモノであるとしなければならない。つまり「ショッカー大首領」と言えば、ショッカーという組織の大首領のみを指すのではなく、歴代組織すべてを操っていた存在を指すのである。
 なお、蛇足であるが、「仮面ライダーブラック」以降のシリーズは別なものであるとみなす。無論、排斥する訳ではない。プロデューサーが違うから通常、別シリーズとして扱うだけだ。
 彼(と、三人称単数でいいのかはわからないが…)の巧妙かつ狡猾この上ないところは、基本的に自らは手をくださなかったことである。ショッカーの構成員は改造手術を受けた人間である。脳改造や洗脳されたものも多いが、ナチの残党など、自分の意思で参加した者も多い。ゾル大佐や死神博士などである。
 悪の組織は現れては消えていったが、彼は諦めなかった。そういった執念深さも恐ろしい。執念深いといえばバルタン星人であるが、彼らはウルトラマンと地球人に「民族的怨念」を持っているためで、ショッカー大首領の執念とは趣きが異なる。大首領のそれは、もっと「純粋な」侵略欲なのだ。
 しかし、歴史は皮肉なものだ。「最強の怪人」を目指して作られた「バッタ男」が仮面ライダーとなり、似た境遇に置かれ且つその志受け継ぐ者達は仮面ライダーを名乗り、ことごとく悪巧みは粉砕されていった。彼が試みた「改造人間」という侵略の方法論は自ら生み出した「改造人間」によって打ち砕かれたのだ。
 おそらく大首領は今も、世界のどこかで、新たな悪だくみをしているのかもしれない。そして、それを食い止めるため、人類の自由と正義のため、また仮面ライダーたちも…。

        *参考文献「仮面ライダーが面白いほどわかる本」中経出版(ほんとうによくわかりました)