映画の街へ

 倉敷から尾道へ。出発が遅かった。旅行に行く前夜は早寝すべき。経費削減のため、国道2号線を行こうとするが、あまりにひどい渋滞のため鴨方ICから高速に乗った。さすがに山陽道は四国と違って平日でもそこそこ車が多い。
 でも、あっという間に尾道へ。前にも一度来たことがあったが、その時はラーメンを食べただけで引き返した。しかも、そのラーメン屋はハズレだった。
 大林監督の映画は何年も見ていない。でもこの街には特別な空気があるのを感じる。ゆっくりしたいが、先のスケジュールもびっちりなので、お目当ての大和のロケセットへ急いだ。
 映画「男たちの大和」はまだ見ていないが、実物大で再現された大和は一度見てみたかった。GW明けで撤去されるらしい。
 セットは造船所跡に作られていた。移転をしたのか、不況によるのか知らないが、廃墟になった工場の屋根の間から見える「大和の一部分」のミスマッチ感が妙な気分にさせた。錆びたクレーンや崩れそうな建物群が象徴する「経済大国」の斜陽と、大和のロマンチズムが孕む復古的ナショナリズム。それらはミスマッチではない。
 造船所の敷地はやはり大きく、駐車場からセットまではシャトルバスが運行していて、その運転手さんがおかしな人だった。「空席以外は満席で出発します」 どっかで聞いたことがある。たしかあれは渋谷公会堂で強行されたある伝説のライヴについてだ。

 さすが実物大はすごい。前部のみなのだが、それでも全長190mほどある。主砲や対空砲などの火器類も精密に作られている。しかし、艦橋はないので、前方から見たら何か足りない。映画ではCGで再現されているらしい。でも、ここまで作るだけですごいことだ。

 セット上をグルグル回って、堪能した。セットの近くの食堂は、撮影中出演者たちが利用したものをそのまま使っている。メニューは「水兵さんのカレー」とか「士官コーヒー」とか「大和ラムネ」とか。実際大和館内にはラムネを作る設備があり、乗組員用に販売していたそうだ。
 平日だから待ち時間はなかったが、それでも人は多かった。倉敷の美観地区よりも高知の桂浜よりも。
 大いに楽しんだ。再現された部分だけでも大和の「威容」は感じられた。大和が持てはやされること。昨今高揚するナショナリズム。そういうものに違和感を持つから、あの映画は見なかったのだし、平和主義的観点は置いといても、戦略的に大和級の建造と運用(いうまでもなく最後の出撃を含む)は反省されるべきだ。そういう意識は持ちつつ、やはり楽しんだ。何度も触れたが、戦国時代が好きであったり、軍事に興味があったり、私は矛盾している。
 尾道だけでも丸一日観光できるくらい見るところはあるのだが、くだんの「圭ちゃん食堂」で昼食を済ませ、先を急ぐ。食べたのは「水兵さんのカレー」だ。妻は尾道ラーメンだ。どちらもすごい味だったが、そういう事情の食堂なので、文句はない。

 でも、大和を観光資源化することや映画化することを否定はしない。作る側に「思想的意図」はあるのだが、面白いものは面白いだろう。劇場で見とけばよかった。