世界は広く 音楽の森は深い

梅雨ですな

 先日岡山にてOKIさんのライヴを観た。会場は「サウダーヂな夜」という趣のあるカフェだった。以前に梅津和時さんのライヴが催されたこともある場所らしい。ライヴがあるのを知ったのはその数日前の地元新聞の告知で、幸運なことに偶然夜勤明けの日であった。仕事の続く日の合間にライヴを観に行くというのは多少しんどいことではあった。でも行った。
 OKIさんはアイヌの「トンコリ」という弦楽器の奏者である。「ラフ・ガイド・トゥ・ザ・ミュージック・オブ・ジャパン」というコンピ盤で1曲だけ知っていて、ずっと気にはなっていたが、なかなかCDが見つけられず(ネット通販なら簡単なのだけど…)それ以上聴くには至ってなかった。
 ちなみに「ラフ・ガイド・トゥ・ザ・ミュージック・オブ・ジャパン」は極東地獄ラジオにて、彼の吹く尺八の「満月の夕」で山口洋さんを爆笑死させた伝説のロック評論家ポール・フィッシャーさんによって編まれた日本のトラディショナルを紹介したコンピレーションである。枚方のKさんに教えてもらった個人的にも思い出のある1枚である。ところで、ポール・フィッシャーさんは今何処にいるのだろう。英国に帰ったという噂も聞くが…。
 まさしくすごいライヴであった。それは予想を遥かに超えていた。改めて音楽を聴いていてよかったと思った。完全にOKIさんひとりによるソロであり、トンコリも5弦ないし6弦のシンプルな楽器なのであるが、繰り出す音から広がる世界というのは、とてつもなく広く深くてきもちいい。たった5、6本の弦から出るような音ではなかった。エフェクトをかける場面もあり、コンテンポラリーな響きもある。強烈なハーモニーがあるし、喩えようのないグルーヴがある。呪術的で幻想的であるけれど、優しくもある。オーガニックなトランスである。
 「ムックリ」という竹に紐をつけて口に咥え、口腔内の形を変化させることによって音色が変化するというリズム楽器も演奏したが、これもシンプルな楽器ながら、複雑な世界を醸し出していた。リズム楽器でありながら、ある意味メロディ楽器でもあると思う。
 ギターの弾き語りもあったが、やはりコードもスケールもアイヌ音楽特有の不思議な響きだった。鳴っている音はギターの音であるけれど、まるで違う楽器のような。
 曲間の喋りから感じられる彼の人柄も魅力的だった。
 会場で「HANKAPUY」というCDを買って、サインを貰った。このアルバムには梅津さんも参加している。「梅津あるところに面白い音楽あり」という格言は真実だ。
 ライヴでもそうだったが、伝統をしっかりと継承しつつ、オリジナルでコンテンポラリーである。ノリノリで踊れるし、気持ちよく飛べる。
 いや、ほんとに音楽はすばらしい。心底そう思った。そして世界にはまだまだ私の知らない素晴らしい音楽が溢れているのだろう。
 ライヴ後は妻と倉敷のMさんとアイリッシュパブに行った。土佐人の癖に酒の飲めない私ではあるが、帰りはドライバーとして役に立つ。