夜のお散歩だワン!ちなみにオス♂だワ

実家で飼っていた犬が死んだ。14歳だった。人間で言えば、多分90歳くらいだろう。私は死に目には会えなかったけれど、近所の人や仲の良かった犬などに看取られて、逝った。老衰のため、ここ半年くらい倒れる事が多かったが、最後は苦しまずに、眠るように大往生した。
私が高校生の時に飼い始めた。近所をウロウロしていた野良犬を拾って育てたのだった。その頃は多分生後3ヶ月くらいだったが、ミニピンそっくりだったので、大きくならないだろうと思ったけれど、ミニピンどころか、中型犬の大型寄りの大きさまでどんどん大きくなり、成犬になれば、ただの赤犬の雑種になった。よく食べてよく肥えた。気が付けば、デカい癖にお座敷犬になっていた。
大学に行ったり、県外に就職したり、結婚して実家を出たりで、一緒に暮らしたのは一生の半分程度だったが、実家で住んでいた頃は、よく遠くに散歩に行った。忙しければ1kmにも満たないのだが、気分が乗れば10km以上も引っ張りまわされ、勝手な飼い主だと思っただろう。
エサを忘れられれば、吠えて強く要求するだけのバイタリティのある犬だった。車に跳ねられても、擦り傷だけで済んだラッキーな犬だった。
けして賢い犬ではなかったが、奇妙な部分で頭が良かった。狡猾であった。よく食卓のおかずを盗まれた。
「おすわり」は出来たが、「お手」は食べ物が出ないとしない。するにしても、曙が武蔵に対して放った反則パンチのような、乱暴なお手だった。
人に対して吠えたり怒ったりすることはなかったが(だから、番犬としてはまったく役立たずだった)、一度過って子供を咬んでしまい(その子は犬好きで、よくウチの犬と遊んでいたが、後ろから犬に抱きつき、驚いた犬は振り向きざまに咬んでしまった)、その日はひどく凹んで、エサも食べなかった。怒られたこともあったけれど、「人を咬む」という飼い犬として最もしてはならないことをしたという自覚があったと思いたい。でもその後もその子との一緒に遊ぶ関係は続いた。
寿命であったし、覚悟はしていた死であったからか、涙は出なかった。だけどふとした瞬間、思い出は次々湧いて来る。どうしようもなく大きな喪失感がある。もう生き物は一生飼わない。ほぼ確実に、自分よりも先に死んでしまうからだ。
「ハッピー」という名で、通称は「ピー」であった。安易なネーミングだ。私が命名したが、「ピー」という間の抜けた音の名が実に良く似合う犬になってしまった。
亡骸は、老犬にしては美しい毛並みであった。これといった病気も怪我もせず(皮膚病と蜂に刺されて病院に行ったことはあった)、老いるまでは健康そのものだった。
今日ペット霊園で荼毘に付された。煙になって、天に昇った。