さんれい

美しい渓流

一昨日、ついに三嶺(1893m )へ登った。憧れの山であった。高知県物部村と徳島県東祖谷山村の間にあり、剣山系に属する。高知では一番人気の山である。登山口から山頂までの高低差が大きく、歩行距離も長く、ハードさにおいて高知県の山では五指に入るが、渓流、高山植物、眺望、山頂の池など、見所が満載で、人気の高さも頷ける。この山の真の魅力は高知県側から登ってこそ味わえる。ちなみに徳島では「みうね」と呼び、高知では「さんれい」と呼ぶ。正式名称は「みうね」であるが、高知の人は頑なに「さんれい」と呼ぶ。
朝4時半に家を出て、6時から登り始めた。となりの西熊山(1815m)へ縦走するつもりだったが、前日ワクワクしすぎて眠れずに睡眠不足だったのか、今月は運動不足気味だったからか、体力が落ちているようで、縦走は取りやめた。それでも、過去最高の歩行距離だったと思う。そもそもこの山は、高知県側から日帰りは無理がある。途中の何箇所かと山頂に無人小屋があり、寝袋など持参で登る人が多い。
そんな訳で、かなり辛く苦しい山行であったが、それだけ充分に楽しんだ。タイミングが悪く、花はあまり見かけなかった(丁度咲く花の入れ替わりの時期だったらしい)が、渓流の美しさには本当に心を奪われた。私は今まで、こんなに美しい流れを見たことがなかった。山頂には池(山頂の池は珍しいと思う)があり、無人小屋がある。この無人小屋は近年建て替えたばかりのようで、ずっと居たくなるくらいきれいだった。板張りで少し背中が痛かったが、暫し昼寝した。行きつけの散髪屋さんも山登りが大好きなのだが、三嶺は彼のフェイバリットで、彼曰く、「三嶺山頂小屋は『別荘』」らしい。彼の言う通りだ。本当に居心地がいい。でも、「雪の降る夜には小屋の周りを雪女が歩いている気がする」とも言っていた。それも分かる。山頂では誰にも会わず、その一軒家に一人居ると思うと、慣れるまでは逆に妙な気配を感じたりもする。気配の正体は屋根にとまったカラスだった。カラスって高いところまで来るんだな。しかし、三嶺山頂までどうやって小屋の資材を運んだのだろう。林道もないし、人手で運べる量の資材ではないと思う。やはりヘリで空輸したのだろうか。
平日ということもあり、合計5人の人にしか会わなかった。ちょっと寂しいものを感じていたのだが、帰りに浸かった温泉で面白い出会があった。
帰り道の土佐山田町の小さな「夢の温泉」で、客は私とその人の二人だけだった。おそらく50代のその人は、四国百名山のほとんどを登ったらしい。その日も、三嶺の隣にある綱附森(1643m)登った帰りとのことだった。ほんの数分か数時間の違いで、同じ登山道を歩き、途中の分岐を違う方向に曲がっっていたのだ。それに、土佐山田の温泉に行く前に、物部村で地図を見ながら、「猪野沢温泉」を探して車を走らせていた。しかし「猪野沢温泉」は現在休業中で、諦めて「夢の温泉」まで国道を下って来たという行動まで私と同じだった。
山の情報を色々と交換したが、50代にしてその体力はすごい。ほぼ20代でありながらへばっていた私は、自分を恥ずかしく思った。その人は香川から高速で来たらしい。香川は1000mを越える山が数座しかなく、気の毒だ。でも剣山系に徳島側から登るとしたら、高知からよりも近いのかもしれないが。
山の楽しみのひとつに、出会った人との挨拶や会話があるのだが、奇遇な出会いであった。