ささいな誘導 その1

どんべえは5分も待たなければ

サブリミナル効果というものはあるのかないのか説が分かれるようだ。私にはあるのかないのか分からない。なさそうな気がする。睡眠学習機がインチキ臭いのといっしょだ。
しかしそんなものよりもっと見る者を駆り立てるものがある。
時代劇で、中村主水銭形平次が夜に屋台でそばをすするシーンだ。
間違いなく、そばを食べたい気にさせられてしまう。
どんべえに湯を注ぐ行動に出ざるを得ない。
どんべえがあればまだいい。しかしその時、家にカップそばがなければ、ずっと欲求を抱えたまま床に就かなければならない。もしくは、深夜のコンビニへ走るかだ。
例えば、うっかり八兵衛が峠の茶屋で団子をほお張るシーンだったとしよう。確かにだんごを食べたくはなる。しかし、屋台で背中を丸め湯気に包まれながらそばをすする中村主水を見た時に湧く麻薬の禁断症状的な衝動とは、比較にならないレヴェルなのだ。
八兵衛が峠の茶屋でだんごを食べるのは当然昼間だ。でも屋台のそば屋は時代劇を見る時間帯にシンクロしている。だから、昼間の帯番組としての再放送でそば屋が出てきてもあまりそそられないのだ。
そして、そばを食い終われば、主水は裏の仕事へ、平次は捕り物へ出向くのだ。「動」に移る前の「静」の場面である。クライマックス前の、静かであるが重要な場面である。
高知のケーブルテレビに時代劇専門チャンネルが加わった。プラス月々2300円で時代劇見放題だ。でも、今はまだ加入はガマンしよう。