またビートルズ話

先日借りたビートルズ本2冊は本当に面白い。ついつい徹夜で読んでしまった。それにしてもこの2冊、切り口が対照的である。「〜音楽論―音楽学的視点から」では和音進行について特に事細かく読み解いている。歌詞とメロディーと和音をシンクロさせて考察し、そこから読み取れる作曲者の人間性やその時の状況などにも言及しているが、筆致は明らかにいわゆるクラシック音楽の評論の手法である。一方、ロック評論家の和久井光司氏の「〜二〇世紀文化としてのロック」はコードについての記述もあるが、機材や録音技術的な解説や楽曲のルーツについての考察がより大きなウェイトを占めている。つまり読み慣れたロック評論の手法である。
例えば「ストロベリーフィールズ〜」について、前者はジョージマーティンとエンジニアのジェフエメリックによるキーもテンポも違う2つのテイクを繋ぎ合わせた「レコード芸術上の快挙」にはまったく触れていない。
「〜二〇世紀文化としてのロック」は大して厚みのある本ではない。286ページである。でも情報の厚みはすごい。伝記としても細かいところまで詳細に記述し、レコードガイドとしても不足なく、文化論としても秀逸である。各時期ごとのマルチトラックレコーダー使用法の図説やリヴァプールの地図(メンバーや関係者の家のマーク付き)なども非常にありがたい。この人独自の功績ではなくて、今までの膨大なビートルズ研究の集成なのだろうが、素晴らしい仕事に敬意と感謝を送りたい。
ビートルズというのは超メジャーだから解説本の類には事欠かず、実に羨ましい。(私もビートルズファンであるが。)ストーンズはレコードコレクターズ別冊の「SOTONED」(和久井氏はここでも寄稿している)がレコードガイドとして最適である。
しかしディランについては、伝記は数多く、インタヴュー集もあるが、レコードガイドらしいレコードガイドは見たことがない。どうしても切り口が詩やキャラクターにばかり偏り、もしくは筆者の感想文のような主観的な話に終始してしまうものが多い。
以前、「ボブディラン全アルバム解説」という本があることを知って、本屋に注文して(その頃はまだネットショッピングなんて一般的でなかった)購入したのだが、各アルバムごとの筆者の思い出話(アメリカの都市部に住む少年の青春日記みたいな)が綴られていて、でんぐり返ったことがある。ディランの場合はアルバムごとにバックミュージシャンが変わるのが常であるから、彼の作品にこそ詳細な解説が必要なのであるが。と、レコードコレクターズに投書しよう、と決意した。