バンドとして

この頃は、メンバー間も険悪で、バンドとしてのビートルズのアルバムというよりは各人のソロ+その他ヘルプという趣きで、解散へ歩を進めているのが伝わってきて、悲しくもある。
ジョージが「なんで俺以外のみんなは仲いいのに、俺のことみんなで嫌うの」とジョンに言ったら、「違うやん。俺以外の君らは仲良しやのに、俺のことみんなで嫌ってるやん」と言われたと回想していた。解散後も初期のソロアルバムでの非難合戦もあった。特にジョンとポールの間には、それぞれタイプの違うソングライターだから「自分にはなく、相手が持っている資質」への羨望もあったのだろう。
ただ、「仲が悪い」と一口にいう事はできないと思う。10代のガキの頃からずっとツルんで来て、苦楽をともにし、ハングルグ時代や怒涛のツアー時代を乗り越えてきた仲である。仲が悪かった時期の方がむしろ特別な状態だったのではないかと思う。アンソロジー映像版で3人揃って楽しそうに昔話に花を咲かせているのを見てそれは強く感じた。本当に全否定するような関係性なら一緒に音楽は作れないだろう。ちなみに70年代中期に極秘にマーティンも交えてセッションした事があったようだ。(その時のテープはすぐにその場で消したらしく、ラベルだけが残っていて、最近オークションにかけられたと音楽誌で読んだ)
アンソロジー映像版でジョンのインタビューだけが昔の映像である事が、ジョンがこの世の人でない事を痛感させた。アンソロジー映像版の制作は93〜95年だと思うが、その時点でのジョンの言葉を聞きたかった。ジョージマーティンを交えて、ポールとジョージとリンゴで「ストロベリーフィールズ〜」や「トゥモロー・ネバー・ノウズ」のマスターテープを聴きながら、コンソールをいじって、はしゃいでいるところは20代に戻ったかの様だった。ジョンが同席していたらやはり楽しく昔話に花を咲かせただろう。
それに今はジョージも、もういないのだ。
バンドの再結成というのは、潔くなくて格好のいいものではない。「解散」という「決意」を反故にするものだからだ。だけれど解散後何年かして、人間関係の拗れが修復されたら、音楽的に成功したバンドほど、また一緒にやりたくなるのは自然な感情なのだろう。特にビートルズに関しては再結成も「あり」だと思った。
アンソロジー発表当時、私はジョンが残したデモにオーバーダビングを加えた「フリー・アズ・ア・バード」と「リアルラヴ」に否定的だった。でも今は、楽曲そのものの出来は置いておいて、意義のある事だったと思う。それ以前はずっと皆「再結成はしない」と公言してきたが、やってみたら心底楽しめたようだ。天国があると想像するなら、ジョンもそこで微笑んでいる事だろう。
それに「フリー・アズ・ア・バード」のビデオクリップはすばらしい。飛んで行く鳥の視点からリヴァプールの町やビートルズナンバーに登場した風景やキャラクターとビートルズ自身の過去の映像が綴られる。私の知る中で最高のミュージックビデオだと思う。