「おるき」(シングル)矢野絢子

 メジャーから2枚のアルバムと1枚のミニアルバムと数枚のシングルを出した矢野絢子は契約を更新(それなりに売上はあがっていたはず)せず、高知に帰り地元インディーズからリリースするようになった。確かに音質の面ではメジャーに比べ良くないが、もっとずっと肩の力を抜いて楽しんでいるのが伝わって来る。いたい場所、根っこのある場所にこだわるのも彼女にとって最も身の丈にあったやりやすく自然な方法ではあるのだろうが、もっと広い世界で活動して欲しいとも、私の勝手ながら思う。「田舎」の高知よりももっといろんな人と音楽のあるところで、抗ったり足掻いたりもしながら、その表現はより豊穣なものになるだろう。彼女は「天才」なのだから。まあ、矢野絢子本人がどういう方法論を取りたいかが一番重要なのだけれど。
 今年は地元インディーズから3rdアルバム「星ヲ抱ク者」もリリースしているのだが、高知が誇る天文家関勉氏が発見した小惑星「おるき」のテーマソングであるこのシングルを推したい。小惑星の名前の募集のキャンペーンがあり、「おるき」という名前が選ばれたのだが、それをコンセプトに書かれたものだ。標準語で言えば、「いるからね」くらいの意味だろうか。小惑星がささやかに自己主張している感じの名前だ。
 矢野絢子の「おるき」も全編土佐弁で唄われている。いわゆる「ご当地ソング」。カップリングは同曲の別ヴァージョンで、それは「歌小屋の2階」という彼女らが主催するライヴハウスの仲間たちとのセッションである。こっちもいい。